こんにちは。ゴールデンレトリーバーのカイザー(仮名)です。
遊びだしたら体力底なし。1歳ですが、まだまだ育ちます。
カイザーをドイツ語で書くとKaiserです。
Kaiserには皇帝っていう意味があります。
そう、僕って皇帝なんです。このところ、皇帝である僕に対する
下僕たちの無礼は、目に余るものがありました。
Mサイズのバリケンネルに入らせたり、
金太郎の前掛けみたいなのをつけさせたり。
いったいなにが下僕たちをこんな暴挙に駆り立てているのか。
皇帝として、なんとしてもその原因を突きとめなければならない。
――そう思っていた矢先のことです。
僕の
公用車が納車されました。
視察デビューから1年。
領内を視察するときは、ずっと徒歩でまわってきました。
ウォーキングは健康的だし、
領内の様子を余すところなく感じとることができて、一石二鳥でした。
夏のあいだ、
徒歩で片道2時間以上かかるような辺境の緑地には行けませんでしたが、
それでも僕は徒歩での視察にそれなりに満足していました。
しかし下僕たちは、夏場の僕の運動不足を心配していました。
また、僕にもっと見聞を広めてほしいとも考えていました。
そこでこのたび、機動力を確保するため、公用車が導入されたというわけです。
なお、Mサイズのバリケンネルや金太郎の前掛けといった暴挙は、
僕がクルマに乗る際の安全対策だったようです。
『さあさあ、クルマがきましたよ! 乗りましょう、陛下!』
「え、ちょっと待って、いきなりそんなこと言われても……」
『クルマの中が怖いですか?
それとも乗りこむときの段差が気になりますか?』
「別にそんなことはないんだけどでもちょっとなんというか」
『そうですか。でも大丈夫です、陛下ならできます。
テレビのコマーシャルでも、ゴールデン・ドゥードルのオスカーくんが
華麗に飛び乗ってますから!』
「いや、オスカーくんは撮影前にきっと何度か練習してるはずで、
いきなりあんなふうに飛び乗ったわけじゃ……」
『まぁまぁそう言わずに、さあさあ!』
「ちょっ、待っ……」